嘱託産業医は実際に何をしているのか|3事業所を担当した正直な記録

産業医

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※個人や勤務先が特定されないよう、一部の時期・経緯は変更・一般化しています。

産業医に興味はあるけれど、実際に何をするのかが分からない——産業医という働き方資格の取り方は調べれば出てきますが、契約したあとに毎月何をしているのかは、意外と書かれていません。

先に、この記事の限界を正直に書いておきます。

私は嘱託産業医として3つの事業所を担当しましたが、正直なところ、大したことはやっていません。 専属産業医の方や、メンタル不調者の対応が多い事業所を担当している方から見れば、ほとんど何もしていないに等しいと思います。

ですので、この記事で書けるのは「比較的負荷の軽い嘱託産業医の場合、実際はこの程度だった」という、ひとつの実例にすぎません。産業医の仕事全体を語れる立場にはありません。

そのうえで——その「大したことのない水準」こそ、これから始める人がいちばん知りたい情報ではないかと思い、書くことにしました。

担当した3つの事業所

規模と頻度から書きます。

事業所A:商業施設・従業員50〜100人程度 隔月で訪問。滞在は30〜60分程度。

事業所B:商業施設・従業員50人未満 隔月で訪問。滞在は30分程度。

事業所C:オフィス・そこにいる従業員は数人 比較的大手の企業の、出張所のような位置づけの拠点でした。

事業所Cについては、正直なところ、なぜ数人規模の拠点に産業医が必要とされているのか、私はきちんと把握していません。企業全体としての方針があるのだろうと理解していますが、詳しい経緯を聞いたわけではないので、ここは推測を書かないでおきます。

実際にやっていること

職場巡視(毎回・これが中心)

3事業所すべてで、訪問のたびに職場巡視を行っています。業務の中心はこれです。

作業場所を歩いて回り、通路や照明、整理整頓の状況、危険箇所がないかなどを見る。何か気づいたことがあれば伝える。それだけです。

正直に言えば、毎回大きな問題が見つかるわけではありません。前回と同じ状態を確認して終わることも多い。それでも定期的に外部の目が入ること自体に意味がある、という理解でやっています。

衛生講話(たまに・先方の希望があれば)

事業所Aでは、たまに衛生講話を行いました。事業所Cでも、資料を一緒に読み合わせるような形で実施したことがあります。

ここで正直に書いておくと、講話の資料は自分でゼロから作っていません。 産業医紹介会社が用意している資料を使わせてもらいました。季節ごとのテーマ(熱中症、感染症、腰痛など)に沿った資料が用意されていて、それを使って話す形です。

これは、これから始める人には安心材料になると思います。「産業医になったら自分で講義資料を作らないといけないのか」と身構える必要は、少なくとも私の場合はありませんでした。

健診結果の確認(溜まっていれば)

事業所A・Bとも、健診結果が溜まっているタイミングであれば、訪問時に確認しています。所見のある方について、就業上の配慮が必要かどうかを見る作業です。

面談(一度も発生していません)

ここがいちばん、実感と世間のイメージがずれている部分かもしれません。

私が担当した3事業所では、面談を実施したことが一度もありません。

長時間労働者への面接指導も、ストレスチェック後の高ストレス者面談も、該当者や申出がなければ発生しません。私の担当先では、いずれも発生しませんでした。

もちろん、これはたまたま私の担当先がそうだっただけです。長時間労働が常態化している事業所や、メンタル不調者が多い職場では、面談が業務の中心になるはずです。産業医の仕事は担当先によって全く違う、というのが正直な実感です。

隔月訪問は「手抜き」ではありません

「月1回行かなくていいのか」と思われるかもしれないので、制度の話を補足します。

職場巡視は、原則は月1回です。ただし2017年6月施行の労働安全衛生規則の改正により、次の条件を満たせば2ヶ月に1回とすることが認められています(厚生労働省の公表資料・執筆時点)。

  • 事業者から産業医へ、月1回以上、所定の情報が提供されていること
    • 時間外・休日労働が月100時間を超えた労働者の氏名と時間数
    • 衛生管理者が週1回以上行う職場巡視の結果
    • そのほか、衛生委員会の調査審議を経て事業者が提供することにした情報
  • かつ、事業者の同意があること

つまり隔月訪問は、制度上きちんと想定された運用です。私が勝手に間引いているわけではありません。

(※要件は改正されることがあります。実際の運用は必ず厚生労働省の公表資料や所轄の労働基準監督署でご確認ください。)

報酬について

これも気になるところだと思うので、私の場合の実額を書きます。

1回の訪問あたり、2万5,000円〜3万円程度でした。

これは私が担当した事業所の条件であり、地域・企業規模・業務内容・紹介会社によって変わります。相場として一般化できる数字ではありませんが、「嘱託産業医1回あたり、だいたいこのくらいの水準の契約が存在する」という一例としては参考になるかと思います。

報酬の考え方そのものは産業医求人の探し方にも書きました。

意外と困るのは「相談相手がいない」こと

臨床であれば、判断に迷ったときに指導医や同僚に相談できます。カンファレンスもあります。

産業医の業務は、基本的に一人です。

私の場合、同じように嘱託産業医をしている友人(別のマイナー科の医師です)と情報交換をすることはありますが、知識も経験も同程度なので、教えを乞うという関係ではありません。「そっちはどうしてる?」と確認し合う程度です。

臨床の外に出るというのはこういうことか、と実感した部分でした。もし判断に迷う事案が出てきたら、産業保健総合支援センターなどの公的な相談窓口を頼ることになると思います。幸い、まだその場面には遭遇していません。

正直なまとめ

私の経験の範囲では、嘱託産業医の実務はこうでした。

  • **中心業務は職場巡視。**毎回30〜60分程度で、大きな問題が見つかることは多くない
  • **衛生講話はたまに。**資料は紹介会社が用意してくれるものを使えた
  • 健診結果の確認は、溜まっていれば都度
  • 面談は一度も発生していない(担当先次第で全く変わるはず)
  • 報酬は1回2万5,000円〜3万円程度(私の場合)
  • 相談相手がいないのは、臨床との明確な違い

繰り返しますが、これは負荷の軽い嘱託の一例です。専属産業医や、健康課題の多い事業所を担当すれば、まったく別の仕事になります。私の経験をもって「産業医は簡単だ」と言うつもりはありません。

ただ、「産業医は専門性が高くて自分には務まらない」と入口で諦めている方がいるなら、こういう水準の担当先も実在するということは、伝えておく価値があると思いました。

始め方については産業医の「一社目の壁」の越え方に、資格については認定産業医の取り方更新の実務にまとめています。

嘱託の産業医案件は、バイト特化型のサービスでも扱いがあります。まずはどんな条件の案件があるのか、眺めてみるところからでも十分だと思います。

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迷ったら、いまのあなたに合う記事の読む順番を提案します。
→ 医師の働き方診断「読む処方箋

この記事を書いた人 医師のキャリア迷子相談室。医師・医学博士・日本医師会認定産業医。大学病院勤務を長く経験したのち、クリニック勤務へ。転職活動の実体験はnote「医師転職体験記」で連載しています。

※産業医制度の要件・運用は改正されることがあります。本記事は執筆時点の公開情報と個人の経験に基づくものであり、最新かつ正確な情報は厚生労働省・所轄の労働基準監督署等の公式発表をご確認ください。

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